2020年01月16日

村はずれの古い造船所(1−3)

(前回の続き)

レゴ造船所5.jpg
(筆者撮影)

 2.シチュエーションを決める

ところで、造船所を舞台にするとしたものの、
そこで何をどう見せるかというのは、なかなか悩ましい問題である。

クリブリコンテストでもそうだったが、コンテストに入賞したければ、まずは他人の想像を大きく超えていかないといけない。そのうえで、さらに感動や驚きを与えなければならない。
それが出来ないと入賞は厳しいだろう。

今回は、レゴ艦船の写真コンテストである。
他の参加者がどう仕掛けてくるかは想像するしかないが、ミリタリ勢も多いだろうから、おそらく海戦というベタなシーンで攻めてくるのではないかとまず踏んだ。
想像するに絵になるド派手なシーンである。

そういうシーンに勝とうと思えば、
余程、意表を突く魅せるシーンを作らなければならない。
喩えが古いが、横綱に挑む舞の海関のようなトリッキーさが必要だ。

造船所というのもベタと言えばベタである。
多分、中でも一番のベタは建艦シーンだが、しかし、これはやるとなると大変だ。
ベタなシーンであるほど、実はハードルが高い。
ありがちな場面だけに、作り込みが不徹底だと見てもらえない可能性が高くなるからだ。
それこそ、ヒュー・ジャックマン主演の映画『レ・ミゼラブル』冒頭の建艦シーンのような、何者をも圧倒するような強烈な絵力がなければ他人の視線を独占するのは難しい。
それだけの画面を作るには、時間も物量もなさすぎる。

意表を突くシーン……。
そこで思いついたのが、船底付着物の除去という非常に地味な作業の場面だ。
こんなことを思いついたのは、『タモリ倶楽部』(テレ朝系列)のおかげである。
数年前、船底塗料に関する回があり、その時の話題が妙に記憶に残っていた。
船が長く海に浸かっていると、自然と船底にフジツボや海草が根付き、出力が低下する。
そのため、定期的に陸揚げして汚れを取り除き、
そういったものが付きにくくする特殊塗料を塗るのだという。
海や船と縁の無い私故、初耳の話でとても興味深く聴いたことを覚えている。

誰もそんな場面は描かない。
多分、そんな場面を描いた奴はいない。
海外MOCの作品をいろいろ見てきたが、知る限りそんな場面を再現をした作家はいない。
「えっ!? そこ行くの?」
おそらく誰も見たことがないだろうから、きっと面白い筈だ。
そう思い、作品に取り入れることにした。

自画自賛だが、これが案の定、当たった。
何でも見ておくべきだ。何処で何が役に立つかなんて、誰にも判らない。

     ★ ★ ★ ★ ★

 3.船のモデルを探す

船は、漁船と決めていた。
とはいえ、漁船の知識がない。
テレビ番組や旅先の漁港などで見たことがあるというだけだ。
判らなければ、〈ググる〉しかない。

欧米の造船所を作るのだから、
当然、漁船も欧米のものでなければならない。

欧米の海は、当然、海域の気候や潮流の質が日本の海とは違うだろうから、
当然、日本近海で操業する漁船とは設計も違うはずである。
その風土に合わせたデザインになっている筈だ。

ひとまず 、漁船を "fishing boat" と英訳して検索するが、今時のものしかかからない。
"Old fishing boat" で検索して、ようやく求めるイメージのものに近づいた。
さて、そこでいろいろ画像を物色している中に、
キャプションに "cutter" (カッター)という単語が散見することに気が付いた。
文脈からして、どうやら船の一形式らしいことは窺えるが、
具体的にどういうものか判らない。調べてみることにする。

     ★ ★ ★ ★ ★

一般に、カッター( "cutter"《英》 )という場合、
狭義では一本マストでヘッドセイル、ステイセイル、メインセイルの
三枚の帆からなる小型帆船を指す。
字面からも判るように、カッターは〈切る〉を意味する "cut" に由来する。
水を切るように走る様から来ているそうだ。

〈画像@/カッター〉
Sail plan cutter

(画像引用元=Wikipedia英語版より "cutter" )
※ 画像クリックで引用元に遷移。

しかし広義では、帆のない大型の手漕ぎボートや現代アメリカ沿岸警備隊の高速巡視艇など、船の大小、船室、マストのあるなし問わず多種多様である。
帆走カッターと紹介される漁船の場合もそうで、一本マストばかりではなく、
ヨール( "yawl" 《英》)型のものもあり、定義が判然としない。

〈画像A/ヨール(メインマストとそれより低いミズンマストを舵の後方に置いた帆船)〉
Sail plan yawl
(画像引用元=Wikipedia英語版より "yawl" )
※ 画像クリックで引用元に遷移。

〈画像B/帆走式カッター漁船〉
Bundesarchiv Bild 183-08328-0004, Berlin, Jachtwerft Berlin, Fischkutter
(画像引用元=Wikipedia英語版より "cutter ( boat )" )
※ 画像クリックで引用元に遷移。

何となくだが、中型サイズ以下のもので、
小型というにはそこそこ大きいものはまとめてカッターと呼んでいる、
そんな印象を受ける。

     ★ ★ ★ ★ ★

とりあえず折角、語彙が増えたので、検索ワードを
"fishing boat" から "fishing cutter" に変更する。

実物に交じって意外に候補にひっかかるのが模型の船の画像だ。
こうした画像は、主にカスタム模型作家個人のブログやプラモデルメーカーの販売サイトだが、こうしたサイトが意外に重宝する。
対象物の全方向の詳細な画像が掲載されていることが多いからだ。
特に、実物と変わらないほど精巧な模型は、
実物より参考になることが多々ある。

漁船に限らず、古いものを作る再現する場合は、
模型があるならそれを見て学んだ方が早い。
何故なら、古いものは資料の揃わないことが多いからだ。
特に今回のように古い漁船となると、
あまりにニッチなテーマであるためなかなか資料が見つからない。
その捜索だけでも、とんでもない時間を消費することになる。

検索ワード "fishing cutter" に "model" を加えて、さらに検索する。
さすがに商品化するだけのことはある。
求めていた〈エモい〉漁船の画像がわんさか出てくる。選び放題だ。

船舶模型というのは、私の詳しく知らない世界である。
ドイツのロマリン・クリック社や、デンマークのビリング・ボーツ社など、初めて知る船舶模型専門店がいくつもあり、それらを一つ一つ訪ねて見て歩くわけだが、これがなかなか刺激的だった。
しばらく目的を忘れて、戦列艦やらプレジャーボートやらの造作を興味深く鑑賞した。

さて、それはともかく、
今回は、そうしたものの中から、帆走形式の漁船をいくつか参考に選んだ。
無論、そのモデルの完全再現ではなく、あくまで要素を集約したオリジナルである。

     ★ ★ ★ ★ ★

ちなみに、漁船を作るにあたり、泣く泣くボツにしたものが一つある。
それが、このシュリンプ・カッターだ(画像C参照)。

オランダ近海であるワッデン海周辺で主に操業しているエビ釣り漁船だが、
船の両舷にかかる巨大な扇型の漁網や、錯綜する索具が非常に〈エモい〉。
しかし、網をどう作るのかは勿論、網を下ろす仕組みに対し索具が何処にどうかかり、どう作用するのか殆ど解明できなかったため、諦めた。

〈画像C/Onascht さん撮影のシュリンプ・カッター〉
Comming home
(画像引用元=Flickrより、Onascht さんのページから)
※ 画像クリックで引用元に遷移。

     ★ ★ ★ ★ ★

画像検索の仕方を含め、三回にわたって、長々と準備段階の裏話を書いた。
作者が何を見て、どう考え、どういう嗅覚を働かせて材料を集めているかなんて、
いちいち言葉で語らない。なので、今回敢えて言葉に直してみた。

準備に費やした時間だが、
シチュエーションの決定はともかく、
造船所のモデル探し、船のモデル探しだけで3〜4日かかっている。
知らない分野のことなので、調査そのものが勉強だ。
真剣に向き合うと、最低それぐらいの時間はどうしてもかかってしまう。

むしろ、3〜4日で大方片付くなら、程度としてはまだ軽い方だ。
本当にしんどい話は別にあるが、それはまたの機会ということで。

(次回に続く)
posted by KM at 18:00| Comment(0) | 制作日誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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