前回の続き。
この作品の凄さは、周囲の植栽の表現にある。
〈写真@〉

ここに用いられている技法は、
例えばミニフィグ・スケールのジオラマやビネットにも十分応用できるもので、
知っておいて損の無いものである。
ということで今回は、以下の標題の下にまとめる。
★ ★ ★ ★ ★
世界遺産展作家に学ぶ
植栽の作り方
(1)
植栽の作り方
(1)
改めて、この作品のタイトルは〈シンガポール植物園〉である。
植物園と謳うからには力点を置くべきは、当然ながら植物である。
事実、作者もそちらに重きを置いているようで曰く、
〈群葉のオーガニック感を出すために、「スティッチング」の技術を使って、
レゴの花と茎を組み合わせることで、
木の枝や幹から天蓋のように葉が生い茂っている様子を再現した。〉
とのこと。
何やら特別な技術を用いて、植栽を表現したらしい。
「スティッチング」という技法自体初耳だが、どうやらその技法を使ったものが、
建物を取り囲むように建つ3本の大木のようである。
以下の写真はそのうちの2本を写したものだ。
建物の背後の1本は、作品の背後に回り込んで撮影出来なかったため割愛した。
〈写真A〉四阿に向かって左の木を上から。

大木のモデルについて具体的な言及はない。
実際の”Bandstand”の画像を見ると、確かに、
黄色い花(または葉を)つけた木が茂っているのが判る。
最初これを見たとき、花咲くミモザの木だろうかと考えたが、
コメントの内容からして、どうもそうではなく、
単に黄色い葉をした木(※)らしいことが窺える。
※ 読者であるオーロラ様の御指摘により、
これはイエローレインツリーと判明しました。
マメ科ネムノキ亜科の常緑高木で、
学名を”Albizia saman”、和名をモンキーポッドという。
現在もTVのスポットCMで見られる日立製作所のあの木である。
そう言えばピンと来る人も多かろう。
そのうちの葉が黄色くなるタイプのようである。
情報ありがとうございました。
<(_ _)>
2018年05月08日(追記)
〈写真B〉四阿に向かって右の木を上から。

説明を受けた上で作品を見ると、なるほどな、と思う。
スティッチングとは、オーソドックスなフラワーパーツを
そのまま活用して表現する技術らしい。
〈写真C〉上から見た図

〈写真D〉下から見た図

〈写真E〉側面から見た図

★ ★ ★ ★ ★
スティッチング(”stitching”)とは、
英語で〈縫う〉を意味する動詞"stitch"の現在分詞で、
一針、ひと縫いといった意味がある。
が、ここではどちらかというと、
コンピュータ・グラフィックにおける専門用語で、
〈3D図形生成において、二つのオブジェクトの縁が合うように繋げる作業、または技法〉の意味に近い印象を受ける。
見よう見まねで再現してみた結果をまとめると、
どうやら、スティッチングとは以下のようなやり方をいうようだ。
★ ★ ★ ★ ★
用意するものは、フラワーパーツと茎パーツ。
いずれも旧来からのもので、ビルダーにとってはお馴染みのものである。
個数は任意。多ければ多いほど華やかなものを作ることが出来る。
最近、この手のフラワーパーツや茎がセットに入っているのをあまり見ないが、
レゴストア各店舗の”Pick a brick”(通称PaB)ではよく見かけるので、
安価で大量に仕入れることは難しくない(2018年5月現在)。
事実、今回のサンプルの材料は、PaBで入手した。
もっとも、花の色は白か赤に限られるが。
〈写真F〉

このフラワーパーツは、本来、以下のように、
軸から一つずつ手折って挿して使うものだ。
〈写真G〉

しかし、今回は、これを切らずに使う。
ここでは便宜上、パーツが繋がった状態のものをシートと呼ぶ。
とりあえず、3本ある茎の中、任意の一カ所にシートを挿す。
まずは、好きなところに挿すだけである。
〈写真H〉

次に、先の茎とは別の茎に、またシートを挿し、
今挿したのプレートの中の一つ花にまた茎を挿し、
その茎にまた別のシートを差し込む。
〈写真I〉

差し込む際、少しばかりグッと力をかけて押し込むことになるが、
この時、力をかけすぎて、花を手折らないよう注意する。
こうしたことを形を整えながら繰り返すと、以下のようになる。
〈写真J〉

〈写真K〉裏から見るとこんな感じ。

〈写真L〉横から見るとこんな感じ。

意外にしっかりとしていて簡単には折れそうにない。
もっとも、現段階では量が少ないから問題にならないだけで、
この作品のように大規模なものとなれば、一房がそれなりの重さになるはずである。
長期展示となると、自重で自然と垂れ下がって形が崩れたり、
花の根本でポキンと折れてしまうこともあるだろう。
裏側に支えを入れて形を維持する必要がある。
事実この〈シンガポール植物園〉では、茎の裏側に、
葉っぱパーツ(大)を支えに入れているのが見える(写真D、E参照)。
★ ★ ★ ★ ★
このやり方はミニフィグサイズのジオラマでも応用が効く。
例えば以下のように、花を白に変えれば満開の桜を作ることが出来る。
これに使用した白い花と茎は、以前、レゴストアで大量に手に入れたものである。
〈写真M〉

あり合わせの材料で手早く作ったもので、植物学的な正確さには欠けるだろうが、
それでもかなりそれらしく出来たのではないか?
桜の花はピンクでなければならない、というのは先入観で、
実際、春の陽差しの下に見えるソメイヨシノの色はかなり白に近いピンクであるが故、
白で割り切ってしまってもあまり違和感はない。
最近、PaBで白い花を殆ど見ないが、代わりに赤い花を見る機会が増えた。
赤い花が、桜のように密に群れて咲く木となると、日本に限って言えば、
例えば、百日紅(サルスベリ)といったところか。
変わったところでは、鳳凰木(ホウオウボク)も出来るだろう。
鳳凰木は、マダガスカル原産の落葉高木だが、
園芸品種として改良され、沖縄の街路樹にも使われている。
花ではないが、見せ方次第では赤く紅葉したモミジに見立てることも出来るかもしれない。
★ ★ ★ ★ ★
今回は、ここまで。
この作品には、スティッチング以外にも、
まだまだいろんな植栽作りの技術が潜んでいる。
残りは次回。
続く
註※ 写真は全て筆者による。
件の植物、頑張って調べました(笑)
イエローレインツリーと思われます。
和名、モンキーポッド
但しそのうちの葉が黄色くなるタイプのようです。
ミモザと同じマメ科です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%83%9D%E3%83%83%E3%83%89
拙ブログ、ご覧頂きありがとうございます。
情報に基づき確認したところ、イエローレインツリーで間違いないと思います。その旨、本文に記載致しました。ご査収下さい。
情報ありがとうございました。
<(_ _)>