〈写真@〉今回のチケット。

現在、大阪、大丸心斎橋店で、
〈PIECE OF PEACE『レゴⓇブロック』で作った世界遺産展PART-3〉が開かれている。
今回は、そこに展示されている作品の中から、建物ビルダーとして私が注目した作品について書いてみたい。
まずは、日本編。
★ ★ ★ ★ ★
レゴは何でも作れるというが、
確かに、〈無理をすれば〉何でも作ることが出来る。
しかし、どんな素材にも相性の悪い組み合わせというものはあって、
例えば、レゴと伝統的な日本建築というのは頗る相性が悪い。
レゴはデンマーク発祥の玩具であり、パーツの色はやはりヨーロッパの色だ。
赤一つとっても、日本古来のウエットな赤とは異なる。
色の違いもそうだが、建具や屋根の造作も大きく異なる。
糸屋格子に蔀(しとみ)、襖に障子、犬矢来…、
そんな気の利いた建具パーツがあるはずもなく、
やるとなれば色んなパーツを組み合わせてそれらしく作り出すしか道はない。
が、これらを違和感なく再現しようとするとなかなか難しい。
屋根はさらに難しい。
特に、社寺建築独特の照り(屋根の反り)を伴う
入母屋(いりもや)造りや錣屋根(しころやね)、唐破風(からはふ)など、
複雑な傾きを伴う入り組んだ屋根を美しく作ることはなかなか至難である。
こうした難問を世界のビルダーはどうやって解決したのか、気になるところである。
★ ★ ★ ★ ★
1.
『紀伊山地の霊場と参詣道』より、
高野山金剛峯寺根本大塔
作: Andy Hung
『紀伊山地の霊場と参詣道』より、
高野山金剛峯寺根本大塔
作: Andy Hung
高野山は、和歌山県北部に連なる1000メートル級の山々の総称である。
弘仁7年(816年)、後に真言宗の開祖となる空海がこの地を嵯峨天皇より賜り、
金剛峯寺を中心とする一大宗教都市を拓いた。
この大塔は、昭和12年(1937年)に再建されたもので、
胎蔵大日如来(たいぞうだいにちにょらい)と金剛界四仏などが安置されている。
建物の特徴としては、一階部分が方形、二階部分が円形という構造で、
これは真言密教の世界観を表していると言われている。
〈画像@〉実際の金剛峯寺壇上伽藍より根本大塔

(画像引用元=Wikipedia日本語版 金剛峯寺より、ウィキメディアコモンズ経由)
※画像クリックで引用元を表示
一階、二階とも、角が軽くめくれ上がった方形屋根が葺かれているが、
これをレゴで再現するとこのようになる。
〈写真A〉

この規模になると、プレートの積分での制作がやはり妥当だろう。
桟瓦(さんがわら)の作る波形はジャンパープレートを用いて成形。
上手いものである。
精密な日本建築を手がける場合、存外にえげつない造作になるのは、
屋根の裏側だ。
むき出しの垂木(たるき)や軒桁(のきげた)の生み出す構造美を
どれほど再現できるかが勝負になる。
〈写真B〉

円形の塔屋から垂木が放射状に延びる。
〈魂は細部に宿る〉とはよくいったものだ。
こうしたところに手を抜かないことが肝心。
〈写真C〉

次に建具。
私が注目したのは、この格子窓の作り方。
通常、最も簡便に格子窓を作るなら、
以下の図@のように、
1x4以上のプレートに1x1のプレートを一つおきに配置したものを
複数個重ね合わせて横にして表現している。
図@の場合、茶色1x4が縦の桟、黄色の1x1が横の桟である。
〈図@〉

無論、空白部分が格子の枡目を表すわけだが、
しかし、この作者は、
図Aのように、
長いプレートに1x1ラウンドプレートを隙間なく並べたものを
複数個重ねて横にして表現している。
〈図A〉

格子の目の細かい枡目は、
ラウンドプレート独特の形状が生み出す陰翳を利用して再現している。
こうした寺社建築の塔屋のみならず、数寄屋建築の町家などにも応用できそうである。
…ちなみに、
前回まで連載していた拙作の北観音山鉾町の町家の格子窓に、これに似た技法を使っているが、
全くの偶然である。
次回に続く
註※
特に指示のない限り、写真は全て筆者撮影。図は、LDDで作者が作図した。