祇園祭を再現すると決めたものの、
何より骨が折れたのがこの山鉾の再現である。
何と言っても祭りのメイン。
これがきちんと再現できないことには始まらない。
まずは、今回、制作対象とした北観音山について。
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〈写真@〉

北観音山(2009年、Corpse Reviver撮影)
出典:ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)
(※ 画像クリックで出典先にリンク)
祇園祭の山車のことを総称して山鉾と呼ぶが、
これには五つの形がある。
厄神の依代となる真木(しんぎ)と呼ばれる柱の立つ〈鉾〉(長刀鉾、月鉾など)、
船の形をしたかく〈船鉾〉(船鉾、大船鉾)、
大きな傘の形をした〈傘鉾〉(綾傘鉾、四条傘鉾)、
御神体人形を載せた〈舁山(かきやま)〉(孟宗山、保昌山など)、
真木の代わりに真松(しんまつ)を依り代とする〈曳山(ひきやま)〉
(南観音山、岩戸山など)。
これらのうち、北観音山は形式としては〈曳山〉である
(便宜上以下、単に〈山〉と呼ぶ)。
北観音山は、後祭籤取らず(くじとらず)の二番目の山である。
籤取らずとは、文字どおり、籤引きしないということを名詞化したものだ。
祇園祭山鉾巡行での各山鉾の出番は、毎年籤引きにより変わる。
しかしそのうち、長刀鉾や船鉾といったいくつかの山鉾に限っては予め巡行での順番が決まっており、
そうしたものを籤取らずと呼ぶ。
北観音山はそうした山の一つで、
魔除け・露払い役の橋弁慶山(籤取らず)に続く形で巡行を行う。
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構造について。
山は、直方体の箱形の乗り物である。
屋根までの高さ、地上からおよそ26尺(町家2階相当、約8メートル)、
鉾頭(或いは真松の天辺まで)までだと約80尺(ビル8階相当、約24メートル)。
囃子舞台と呼ばれる囃子方の乗り込む露台部分が、およそ四畳半から六畳分とされる。
北観音山の場合、見た目六畳分くらい(およそ 270x360 センチ程度)はありそうだ。
山の外観は、日本の職人達がこさえた染物、金襴緞子、或いはゴブラン織や中東の絨毯といった
舶来品など豪華な懸装品で飾られているが、中は骨組みだけで中空である。
(北観音山の構造については、こちらの町会HPに組み立ての様子が記録・公開されています。
→六角会)
〈図@〉

(筆者撮影の画像を加工)
屋根は、しばしば寺社建築に見られる切妻の照り屋根。
その屋根の上には真松が飾られ、
松の足下には、左三つ巴の八坂神社御神紋(図A参照)が飾られた
朱色の布が巻かれる。
これを網隠しと呼ぶ。
〈図A〉

(八坂神社御神紋/筆者作)
八坂神社御神紋は二つあり、左が〈左三つ巴〉、右が〈五瓜に唐花(ごかにからはな)〉。
こうした御神紋は、祇園祭期間中、山鉾本体や町内の提灯飾りなど至るところで見ることが出来る。
閑話休題、
〈図B〉

(筆者撮影の画像を加工)
〈写真A〉

破風下(はふした)には、1833年片岡友輔(かたおか・ゆうほ)作の木彫雲鶴。
天水引(てんみずひき)は、金地錦観音唐草(きんじにしきかんのんからくさ)と
雲竜図を隔年で使用。
写真Aは、筆者が2015年7月に撮影したものだが、この時は前者の観音唐草である。
〈写真B〉

〈写真C〉

〈写真D〉

(いずれも筆者撮影)
細かい人物群像が施された下水引(したみずひき)は、
幕末から明治に活躍した円山派の画家・中島来章(なかじま・らいしょう)による、
伝・関帝祭図(でん・かんていさいず)の下絵。
関帝とは、三国志中の登場人物・蜀の関羽のことである。
彼は死後、軍神として崇められ、忠誠・高潔の象徴となった。
二番・三番水引は、
それぞれ「赤地牡丹唐草文様綴織(あかじぼたんからくさもんようつづりおり)」と、
近年復元された「金地紅白牡丹文様唐織(きんじこうはくぼたんもんようからおり)」。
水引類は、所謂、金襴・緞子(きんらん・どんす)の織物である。
欄縁(らんえん)には、唐獅子牡丹文様など煌びやかな錺金具(かざりかなぐ)が
装飾として施され、四隅には、祇園守が編まれた房飾りが垂れ下がる。
前懸(まえかけ/写真B参照)・後懸(うしろがけ/写真C参照)及び、
胴懸(どうがけ)は、それぞれ絨毯が幕の変わり用いられている。
前懸・後懸は、ともに19世紀ペルシャ製。
胴懸は共に復元品で、うち西面(写真D参照)は〈斜め格子草花文様〉のインド絨毯。
対面の東面は、トルキスタン絨毯である(写真なし)。
〈写真E〉

〈写真F〉

(いずれも筆者撮影)
山には同じサイズの車輪が4つ履かされていて、
これを沢山の人で曳いて転がし、巡行する。
車輪は、人の背丈ほどある。
スポーク部分は鉄らしいが、
タイヤに当たる部分は木を円形に加工して黒く塗ったもののようである。
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山は、それ自体が芸術品。
これをレゴに落とし込む。
簡単な話ではない。
次回に続く