諸般の事情有って一年ばかりお休みしていましたが、再開します。
新年一発目は、
LEGO艦船ベストショットコンテスト大会(以下、LSBCJ )
クリエイト・イトヤギ賞受賞作
拙作『村はずれの古い造船所』について。
世界遺産展については、一旦お休み。
そのうちまた続きを書きます。
では本編。
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村はずれの古い造船所
LEGO艦船ベストショットコンテスト大会参加作品
クリエイト・イトヤギ賞受賞作
LEGO艦船ベストショットコンテスト大会参加作品
クリエイト・イトヤギ賞受賞作
〈写真@〉

LSBCJ は、昨秋、Twitter上で開催されたレゴ艦船をテーマとした写真(または映像)コンテストである。
(コンテストの詳細はこちら→LEGO艦船情報専用&航海日誌)
たまたま私のタイムラインに流れてきて、何だか面白そうなので参加した次第だ。
LEGOクリックブリックのコンテストが終わって久しい。
ようやく求めていた血の騒ぐイベントに出会えたと思った。
誰が相手か知らんが一人残らず叩き潰してやる
と、思わず野蛮なスイッチが入ったことを否定しない。
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私の造形の得意分野は都市と交通だが、
ここ数年は鉄道車両を手がけることが多く、
なかなか他のものに手が伸びずにいた。
船舶も好きな分野で子供の頃はよく作っていたが、
大人になってからは何となく造る機会を逸したまま今に至っていた。
今回の制作は、およそ三十年振りである。
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船を造るにあたり、
それならば以前から一度手がけてみたいと温めていた題材に挑戦してみようと思った。
それが造船所である。
巨大タンカーや豪華客船を手がけるような大規模造船所ではなく、
ジブリ映画『崖の上のポニョ』に出てきたような、
内海にひっそりと佇む中小規模の古い造船所。
引揚船台、
錆の浮いたトタン張りの工場建屋、
年季の入った木造建築の事務所、
少数精鋭、職人気質の船大工が黙々と手を動かす姿などなど……、
当初、漠然とそういう絵を描いていた。
もっとも、この最初のイメージは他人から影響を受けた結果だ。
一番強く印象に残った作品は、あいにくレゴ作品ではないが、
プロモデラーでジオラマ作家の、情景師アラーキーこと、荒木さとし氏の
『トタン壁の造船所』である。
氏の著作である
『作る! 超リアルなジオラマ: 材料探しから作品発信まで完全マスター 』
を読み、その作品を知ったのだが、
そのあまりにリアルな出来は、一つの衝撃であった。

作る! 超リアルなジオラマ: 材料探しから作品発信まで完全マスター
四十年近くも生きていると、年々新鮮な驚きや感動が減っていく。
良くも悪くも、淡々粛々と作品を鑑賞する時間が増えた。
が、その作品は、忘れていた子供の頃の感動を呼び起こすに十分な力を持っていた。
貪るようにそのグラビアページを眺めたものである。
全てはプラモデルだからこそ出来る演出ではあるが、
しかし、レゴにも十分応用出来るものはある。
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その作品を、偶々、鑑賞できる機会に恵まれた。
2017年8月、荒木氏の作品展が、
埼玉県越谷市のAEONレイクタウンアウトレット内で催された。
丁度、仕事で東京に長期滞在していたため、時間を工面して鑑賞と相成った。
〈写真A/越谷レイクタウン〉

会場は美術展示室や催事場のような広い部屋ではなく、
アウトレット内の広い通路であった。
宝石や腕時計を陳列するような全面ガラス張りのショーケースがいくつか並び、
そこにビネットやジオラマ作品が等間隔に、或いは一点だけドンと飾られている。
その中に、目的の作品があった。
〈写真B/荒木さとし作『トタン壁の造船所』〉

〈写真C〉

ガラスの反射や周囲の光景がちょっとうるさいので、
その凄さが十分に伝わるかは判らないが、
とにかく空間の切り取り方や作り込み、描き方が美事だ。
飽きずにずっと見ていられる。
〈写真D〉

この作品には作業員等のフィギュアは一体も登場しない。
しかし、そこには明らかに人の営みがある。
配置されている一つ一つのものにも、
そこに生きる人々の積年の思いや物語を感じる。
引揚船台の錆びたレール、塗装の剥げた船台。
手前のまだ新しさの残る漁船と、奥の何もかもが草臥れた漁船の対比。
手前の船の傍の脚立には、夜間作業のためかハロゲンライトが括り付けられている。
打ち寄せるさざ波の描写。
引き揚げた船から落ちたものか、他所から流れ着いたものなのか?
汀に黄色のブイが、ポツンと一つ転がっている。
波が打ち寄せるだけのモノトーンの寂しい空間だが、
この黄色がとても効いている。印象深い。
干潮なのだろうか、奧のコンクリートの岸壁の足下、
ヘドロの固まったらしい壁面が露出している。
その岸壁の上には、錆の浮いた年代物のクレーン。
手で触ると表面の塗装がチョーキングを起こしていそうな感じがする。
〈写真E〉

長年の雨風埃にまみれ薄汚れたらしいトタン屋根や壁の風合い。
古い板は風に捲れ、飛ばされたのだろうか?
キルトのように四角く継ぎ接ぎされた板の色が新しい。
傷や汚れが積み重なり幾ら拭いても、もうそれ以上綺麗にならない窓ガラス。
吹きつける潮風にめげず根を下ろし壁を伝う蔦。
使い勝手の結果か、何となくそこが所定の位置になったらしい壁の梯子。
当初は灰白色だったのだろうが、土埃や風に散った錆、タイヤの痕、油染みなど
生活に草臥れたコンクリートの地面。
一つ一つが、なかなか憎い。
〈写真F〉

〈写真G〉

建屋の内部は、むきだしの鉄骨に照明がぶら下がるだけのがらんとした空間だ。
海に面した開口部頭上の〈安全第一〉と緑十字の啓発看板が、いい味を出している。
アーク溶接の青い火花、クレーンの鎖の音、
鋼板に槌打つ音、指示を飛ばす職人たちの声……、
色んな音が聞こえてくる。
何となく埃と機械油と潮の匂いの交じった噎せるような空気もそこに感じる。
時には休憩の煙草の匂いも感じる。
そこには人々の生活が、ある。
〈写真H〉

最後に、
真上から見ると、作品は長方形の土台に対し斜めに構築されているのが判る。
正面から見たときに広がりを感じられるような構図であることが判る。
……もっとも、真似してみたい構図ではあるが、これをレゴで行うことは至難である。
出来ないことはないが、パーツの形状に制約がある以上、
美しく仕上げようとすると、非常に煩わしい手数を踏むことになる。
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いつか、こういう作品を作りたい……。
そう思って、さらに二年経過し、今回、ようやくその機会が巡ってきたわけだが、
とはいえ、同じようにトタン張りの造船所を作ってしまうとただの二番煎じである。
やるなら違うことをしないと芸がないわけだが、さて、どうするか?
いろいろ悩むことになる。
(次回に続く)
※ 写真は全て筆者が撮影した。
ラベル:村はずれの古い造船所