重い項目が続いたので、今回は軽めの内容で。
例えば世界的な美術コレクションの特別展でも、
退屈な作品というのはどうしても一つ二つあるものだ。
当然、傑作揃いの世界遺産展といえども、
全部が全部見所というわけにはいかない。
事実、視界に入った瞬間、「ふーん」と、
何ら掘り下げられることもなく素通りされていた作品もある。
まさに出オチのような作品だ。
しかし、流して見るだけでは勿体ない。
今回は、そうしたものを集めて掘り下げてみた。
なお、出オチだなと感じたのは、飽くまで私個人の感想である。
★ ★ ★ ★ ★
10.
『富士山−信仰の対象と芸術の源泉』より
富士山
作:ルーカス・フィルマン
『富士山−信仰の対象と芸術の源泉』より
富士山
作:ルーカス・フィルマン
〈画像@〉

(画像引用元=Wikipedia日本語版『富士山』より、ウィキメディア経由)
※ 画像クリックで引用元に遷移。
標高3776メートル。
言わずと知れた日本の最高峰。
富士山は当然ながら自然地形であるが、
世界遺産としては文化遺産での登録である。
山岳信仰の聖地として、また富嶽三十六景に代表される浮世絵などの絵画作品、
古くは『竹取物語』に見られるように日本文学の主要な題材になるなど、
文化・芸術に幅広い影響を与えたことが評価され登録となった。
〈写真@〉

見た瞬間、富士山と判る。
ただそれ故に、新幹線から見る富士山ぐらいの勢いで流して見ている人多数で、
作った苦労が殆ど報われていないと思った作品。
もっとも、また海外なら反応が違うのかもしれないが。
そういえば、ミニフィグサイズのジオラマ向けに山を組むことはあっても、
山岳地形の立体模型として組む例というのは、殆ど知らない。
プレートの単純積分で作っているだけで、特にトリッキーなところは特にない。
技術的な面ではこれといったものはないが、
ただ制作までの準備をどうしたのかは気になるところだ。
「富士山を描いて下さい」というと、殆どの人は容易く描けるに違いない。
それらしい感じで台形を描けば、大概似るものだ。
平面的に見た稜線はそれぐらい単純であるが、
しかし、これを三次元できちんと捉えるとなると容易な話ではない。
自然地形だから当たり前だが、思った以上に複雑な形状をしている。
例えば、リアルに作るなら、国土地理院発行の等高線図を階層ごとにスライスし、
それをもとにLDD、或いは専用方眼紙で作図するといった下準備が考えられる。
そうやったのだろうか?
しかし、もしそうなら、大沢崩れや宝永火口といった
ダイナミックな地形的特徴が顕著に描かれてもいいはずだが、そういった感じはない。
厳冬期の雪に埋もれたという設定なのか?
そうでないとすると、空撮画像などを見ながらフリーハンドでやったのか?
過程を想像するのも面白い。
〈写真A〉

いずれにせよ、写真を舐めるように見ながら細かく色を置いただろうことは
想像に難くない。
こうした配色のセンスは見所だろう。
気の遠くなるような細かさだが、これを制作期間6日で片付けたそうである。
それは凄い。
〈写真B〉

★ ★ ★ ★ ★
11.
『メンフィスとその墓地遺跡
-ギーザからダハシュールまでのピラミッド地帯』より
カフラー王のピラミッド
作:渡瀬達生
『メンフィスとその墓地遺跡
-ギーザからダハシュールまでのピラミッド地帯』より
カフラー王のピラミッド
作:渡瀬達生
〈画像A〉

(画像引用元=Wikipedia日本語版
『カフラー王のピラミッド』より、ウィキメディア経由)
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エジプト、ギーザは、ナイル川中流域西岸、
首都カイロの西南20キロに位置する都市である。
カフラー王のピラミッドは、
この砂漠に建つ三つの巨大なピラミッドの中の一つである。
カフラー王は、古代エジプト、
古王国時代第4王朝(紀元前2500年頃)のファラオであるが、
ヘロドトスの記述により、
性格が残虐であったという否定的な事実以外よく知られていない。
ピラミッドの近くに建つ大スフィンクス像は、彼が建てたとされる。
タン一色、パーツの山。
多くの人にとっては、遠目に一目瞭然、ピラミッド故、
もうそれだけでお腹いっぱいの筈。
近くで細かく見ると、ものすごく凝った作業をしているのだが、
多分、一般にはその凄さが全く伝わっていないように思う。
〈写真C〉

この作品の凄さは、細かなパーツの生み出す複雑な陰翳にある。
数千年の風雨により削られ、または崩れた荒々しい巨石の肌を、
様々なパーツを用い、細かく調子を変えながら作っている。
〈写真D〉

各段の面の形状はランダム。
45度傾斜ブロック、逆傾斜ブロック、円筒ブロック、
ジャンパープレートによる半ポッチずらしての積分など、実に細かい。
これに光を当てると、明暗にばらつきのある、ある種独特のノイズを含む陰翳が生まれる。
〈写真E〉

この作品の鑑賞のポイントは、全体の形もさることながら、
そうした陰翳の美を深く愉しむことが出来るか否かにかかっているように思う。
ある種、谷崎潤一郎『陰翳礼賛』の世界だ。
〈写真F〉

〈写真G〉

個人的な感想として、
この会場の中で、実は一番工作の難しい作品がこのピラミッドなのではないかと思う。
大きく見れば、そもそも特に色味のない単調な形状である。面白みは何処にもない。
そこに極めてシンプルな方法でリアルな美を与えるというのは、
生半可な姿勢では出来ないことのように感じるからだ。
それが素通りされてしまっているのは、実に惜しい。
★ ★ ★ ★ ★
12.
『マチュ・ピチュの歴史保護区』
作:伊藤剛、かたおかしんご
監修:直江和由
『マチュ・ピチュの歴史保護区』
作:伊藤剛、かたおかしんご
監修:直江和由
〈画像B〉

(画像引用元=Wikipedia日本語版『マチュ・ピチュ』より、ウィキメディア経由)
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ペルー、アンデス山脈、標高2430メートルに位置する
15世紀、インカ帝国時代の都市遺跡。
アンデス文明は無文字文明であるため、マチュピチュの都市機能や
成立の目的など不明な点が多く、依然として、謎に包まれた遺跡である。
世界史の教科書や資料集の写真でお馴染みの風景。
雲海の竹田城の人気沸騰以降、似たような光景をして〈OOのマチュピチュ〉と喩える機会も増えたことから、その知名度は高い。
だが、どんな遺跡か代表的な建造物を答えよ、と問われると、
全く判らない場所である。
それ故か、全体を見て「ああ、あそこか」となるが、
それ以上は判らないため、ざっと見てスルーする人が多いように思う。
…いや、もっとも、それ以前に造形が通好みすぎる。
居酒屋のつきだしに鮒鮨の古漬けを出されたようなもので、
これに食いつくのはしんどいかもしれない(作者の方、ごめんなさい)。
〈写真H〉

この作品、関心を持ってきちんと覗き込まないと、
何をやったのかよく判らない。
よく覗き込むと、石組みだけになった町並みの廃墟が見える。
ポチスロは、住居の三角屋根の名残を表しているのだろう。
〈写真I〉

作品奧に聳えるのは、ワイナ・ピチュ(現地語で『若い峰』の意)と呼ばれる山である。
よく見ないと気づかないが、それに続く山並みに沢山木が植わっている。
以下の写真の黄色の円内がそれだ。
〈写真J〉

マイクロビルドに応用できそうな木である。
作り方は簡単。
緑のジャンパープレートを数枚適当に重ねて、ランダムに捻り、
一番上に緑の1x1ラウンドプレートを積む。
木の幹は、新茶1x1円筒ブロックで、
これを先のジャンパープレートの真ん中に差し込めば出来上がりだ。
〈図@〉

★ ★ ★ ★ ★
今回のまとめとしては、
出オチだなと思っても、侮ってはいけないということ。
普通の話だが大事なことである。
しっかり覗くと色んな技が隠れているので、
より上手くなりたい人はしっかり鑑賞しましょう。
ということで、この項はおしまい。
次回に続く。
註※ 写真@〜Jは筆者が撮影した。図@は筆者が作図した。