前回の続き、
★ ★ ★ ★ ★
2.
『日光の社寺』より、
日光東照宮陽明門
作:ルーカス・フィルマン
『日光の社寺』より、
日光東照宮陽明門
作:ルーカス・フィルマン
日光東照宮は、栃木県日光市に所在する社寺である。
江戸幕府初代将軍・徳川家康を神格化した東照大権現を祀る。
国宝・陽明門は、柱や壁、梁の一本に至るまで隙間なく彫刻や壁画の施された極彩色の門である。
〈写真@〉実際の日光東照宮・陽明門

〈写真A〉

〈写真B〉

〈写真C〉

〈写真D〉

こうしたものを、作者ルーカス・フィルマン氏は以下のような形に落とし込む。
★ ★ ★ ★ ★
まず、全体について言えば、一見非常によくできている。
含みのある表現だが、この点はあとで詳述する。
黄色みが強いが、これは致し方なかろう。
実際の建物には随所に鍍金や錺金具(かざりかなぐ)が施され、金ピカだが、
レゴの場合、まず金色の基本パーツが充実しているとは決して言えない。
黄色で代用せざるをえないのが実情だからだ。
〈写真E〉

門の正面下層には、通路の両側に一対の随身座像が坐す。
随身とは、左右近衛府に籍を置く、皇族や貴族などの要人警護を司る舎人(とねり)のことである。
現代に当てはめるなら、皇宮警察、或いは警視庁警備部所属のSPといったところか。
〈写真F〉

〈写真G〉実際の写真。

実物の屋根は、基本的に禅宗様の軒の広い入母屋だが、
東西南北四面に唐破風を配している。
瓦は、黒漆で彩色を施した銅瓦という大変高価なものだ。
屋根自体が非常に重いため、その荷重を分散するべく、
多くの組物(くみもの)が用いられている。
組物とは、上からの荷重を支える肘木(ひじき)或いは栱(きょう)と呼ばれる横木と、
桁や肘木を受ける方形の斗(ます)で構成されたものだ(写真H・I参照)。
この組物は基本的に柱上に設けられるものだが、
柱と柱の間に設けられるものもあり、こうしたものを詰組(つめぐみ)という。
また、柱から外に飛び出した部分を手先と呼ぶ。
この手先を2段、3段と重ねたものをそれぞれ二手先、三手先と呼ぶ。
それだけ軒が広く大きくなる。
陽明門の場合、組物は詰組に配置され、下層が四手先、上層部が三手先である。
〈写真H〉実際の組物

〈写真I〉

この組物による手先部分は、
プレートや1x1x 2/3のスロープ(所謂、ポチスロ)など細かい部品を組み合わせたうえ、
その天地を逆にしたものを積んで再現している。非常に細かい作業だ。
〈写真J〉

内部の構造について正確にはわからないが、
組物部分は大凡、以下のように工作したのだろう。
〈図@〉組物の最上段部分は、両側ポッチと1x1x1のビームを使用。

〈図A〉以下のようなパーツ構成で組み合わせ。

〈図B〉天地を逆転させて固定。

但し、そうすると赤で着色した部分はどこにも固定できないことになる(図C参照)。
事実、その上部のパーツと組み合わせられる状態にない。
多分、接着剤で両側ポッチブロックの側面に貼り付けたのではないか?
〈図C〉

続いて屋根。
垂木は、二軒繁垂木(ふたのきしげだるき/繁垂木とは垂木を密に並べたもので、これを上下二段に配したもの)で扇垂木(おおぎたるき/垂木を扇の骨のように放射状に配したもの)に構える。
これらの垂木には、鍍金が施されて金ピカだ。
レゴでは、その部分は、黄色の丸棒やカットしたパイプを並べて再現している。
こういうやり方は初めて見た。
〈写真K〉

驚くべきは、唐破風の裏の弓なりに反った梁。
これを黄色のパイプを曲げて成形したものをクリップで固定して再現している。
唐破風の中央に飾られる懸魚(げぎょ)のことを兎の毛通し(うのけどおし)というが、
この部分はパーツの付き方がおかしい。
どうやらポチスロを逆さにして、接着剤で強引に接着、固定したようだ。
正直、これについてもあまりいい手とは言えない。
〈写真L〉

〈写真M〉

屋根は実際には黒だが、
経年劣化や日の当たり方などで灰色っぽく見えることもあろう。
作者は、新灰のプレートを用いているがそれもありだろう。
プレートの積分により繊細な照りを再現している。
〈写真N〉

〈写真O〉

〈写真P〉

最後に床面。
タイルを菱形に敷き詰めるのは、なかなか手間だ。
裏にプレートを当てて成形しないといけないので、地味にパーツを消費する。
特に事情がない限り、個人的にはあまりやりたくない手法である。
〈写真Q〉

〈写真R〉

まとめ。
接着剤を多用している嫌いがあり、そのあたりは賛否両論あるだろう。
ただ学ぶところも多い作品である。
接着剤でお茶を濁した部分も、
自分ならどうするだろうか、と考えるのもなかなか楽しいものである。
次回に続く、
註※ 写真は全て筆者撮影。図もLDDで筆者が作図した。