前回の続き、
今回は故・直江和由氏の三作品より主に屋根の造作を中心に。
これらの作品について言えることは、どれも特に奇を衒ったところはない。
王道を行く造作と言うべきか、極めてシンプルな組み方で出来ている。
寺社建築、町家などを手がけようと考えている建物ビルダー初心者は、
いい参考になるかもしれない。
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3.
『古都京都の文化財』より
鹿苑寺金閣
作:直江和由
『古都京都の文化財』より
鹿苑寺金閣
作:直江和由
〈画像@〉

(画像引用元=Wikipedia日本語版より『鹿苑寺』、ウィキメディア経由)
※画像クリックで引用元に遷移。
鹿苑寺は、応永4年(1397年)創建。
京都市北区にある臨済宗相国寺派の寺である。
もともとは、室町幕府第三代将軍・足利義満公の山荘として開かれ、
その死後、彼の遺言により禅寺となった。
金閣とは通称で、正確には舎利殿(ブッダの遺骨、またはその代用品〈例として、
その遺骨が収められたストゥーパの前で浄められた貴石など〉を収めた建物)と呼ばれる。
昭和25年(1950年)、同寺の修行僧の放火により焼失。
現在の金閣は、昭和30年(1955年)に再建されたもの。
〈写真@〉

実際の建物について、
屋根は、柿葺き(こけらぶき)、方形造(ほうぎょうづくり/宝形とも書く)。
組物は、柱上のみ。垂木は疎に配置されているため、
野地板(屋根の下地となる板)が目立つ。
建物の造作自体は簡素だが、
これらすべてに金箔が隙間なく貼られているため、見た目は華美である。
作品を下から覗くと判るが、
直江氏は、これをプレートの積分で表現している。
〈写真A〉

〈写真B〉

方形屋根の四隅は軽くめくれ上がっているが、
これもプレートの積分で表現。
やはり、この規模のものとなると単純な積分で対処するのが楽だろう。
この作品で一つ注目すべき点は、蔀(しとみ)の作り方。
大学受験の古文必修単語であるため知っている人も多かろう。
蔀とは、桟を格子状に組み裏に布や板を張った戸である。長押に蝶番で固定されており、開放するときは戸を引き上げて吊金具などにひっかけて用いる。
〈画像A〉

(画像引用元=Wikipedia日本語版より『蔀』、ウィキメディア経由)
※画像クリックで引用元に遷移。
直江氏は、この蔀を以下のように表現している。
〈写真C〉以下の二枚は初層部分。

〈写真D〉

〈写真E〉二層目の一隅。

これらの蔀はいずれも、1x1プレートの裏面を利用して再現している。
〈図@〉

1x1プレートを並べ、
任意の大きさのプレートに貼り付け裏返して立てると、蔀が出来る。
〈図A〉

このやり方は、蔀の他、格子状の壁面装飾にも応用できる。
特に和建築は格子を多用するので覚えておくといい技である。
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4.
『平泉‐仏国土を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群』より
中尊寺金色堂
作:直江和由
『平泉‐仏国土を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群』より
中尊寺金色堂
作:直江和由
〈写真F〉

岩手県西磐井郡平泉町にある天台宗の寺。
諸説あるが伝承によると、創建は嘉祥3年(850年)、慈覚大師による。
金色堂は平安後期、天治元年(1124年)、奥州藤原氏初代当主・清衡(きよひら)により
建立された阿弥陀堂だ。
その頃、浄土信仰の隆盛により日本各地に阿弥陀堂が造営されたが、
これもそのうちの一つである。
延暦寺常行堂の造りをモデルとした、一間四面の典型的な阿弥陀堂建築である。
内陣には、本尊である阿弥陀三尊像を含む11体の仏像の他、
清衡、基衡(もとひら)、秀衡(ひでひら)と三代に亘るミイラ、
及び、四代当主・泰衡(やすひら)の首が祀られていることで知られている。
建物は、現在、全体をすっぽりと覆う鉄筋コンクリート造りの覆堂(ふくどう)に
収められている。覆堂内部は巨大なガラス張りのケースになっており、
金色の堂宇はその中で一定の温度・湿度のもと管理されている。
屋根は、鳥が翼を広げたような優美な照りを伴う方形造。
本瓦形板葺きだが、これは文字通り、
瓦形にカットした板を並べて屋根としたもので国内でも珍しい。
〈写真G〉

〈写真H〉

方形屋根を支える骨組みは、二軒繁垂木(ふたのきしげたるき)。
これをプレートの積分で表現。
さすがにこの規模でやると、垂木の線が美しい。
古典音楽の旋律に似た精密な美しさがある。
〈写真I〉

屋根もまた、プレートの積分による。
先の金閣は単純積分のみであったが、
こちらは隅棟(すみむね/屋根面同士が山折りに接している部分、降棟〈くだりむね〉とも)に熨斗瓦(のしがわら)と冠瓦(かんむりがわら)が葺いてある。
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5.
『法隆寺地域の仏教建造物』より
法隆寺五重塔
作:直江和由
『法隆寺地域の仏教建造物』より
法隆寺五重塔
作:直江和由
〈画像B〉

(画像引用元=Wikipedia日本語版より『法隆寺』、ウィキメディア経由)
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聖徳宗総本山法隆寺は、言わずと知れた奈良の名刹である。
創建は、推古天皇15年(607年)頃。
五重塔は、その西院伽藍に建つ塔で、
現存木造五重塔としては世界最古のものである。
〈写真J〉

こちらの屋根の造りは、単純積分ではなく、
ヒンジとウィングプレートを活用して造っている。
このやり方で屋根を組む場合、傾斜面同士の辻褄合わせが難しい。
傾きに合ったウィングプレートはなかなかないので、
傾き次第ではどうしても不自然な隙間が出来てしまう。
これが目立つと見た目が非常に汚らしいので、
隅棟(すみむね)を設えて上手く隠す必要がある。
この処理の仕方も見ておくべき点である。
先の金色堂、前回の東照宮、前々回の金剛峯寺のほか、
隅棟のある屋根をもつ建物が会場内にいくつかあるが、
それらの作り方を個別に比較して見るのも面白ろかろう。
〈写真K〉

下から覗く。
繁垂木、柱から延びる尾垂木(おだるき)、雲肘木(くもひじき)の組物など、
地味だが見所は多い。
次回に続く。
註※ 写真@〜Kは、全て筆者が撮影した。図@Aは、筆者がLDDで作図した。