2018年11月19日

レゴ世界遺産展探訪15−2

★ アジア編6−2 ★

前回の続き

〈画像@〉
201312161616a Sukothai, Wat Sorasan
(画像引用元=Wikimedia commonsより"Wat Sorasan")

ワット・ソラサックは、14世紀後半〜15世紀初頭に建立された仏塔である。
発見された1412年の碑文によると、インターソラサックという人物が、マハータンマラーチャー3世王子(後にスコタイ王朝第8代国王)により寄贈された土地に建てたとされる。最大の特徴は、塔の土台に24頭の象の彫刻が施されている点だ。タイにおいて象は神聖な動物である。一つに、ブッダの母・マーヤ夫人にブッダの誕生を預言したのが白い象であること、また一つに戦場では王の乗り物であり、先陣を切って突撃したことから、勇猛果敢の象徴ともされる。こうしたことから象は神聖なものとして崇められるようになった。象が彫られたのは、そうした信仰が背景にあると言われている。

ワット(タイ語で寺院)というからには、当然、本堂や礼拝堂など寺院を構成するいくつかの施設も出来たそうだが、そうしたものは現在残っていない。

     ★ ★ ★ ★ ★

よく出来た作品だ。
とにかく細かい。7割(もしくは8割)くらいは、プレートの積分で出来ている。
風化した煉瓦の雰囲気を出すべく、ダークタンを基調に、タン、茶、ダークブラウン、ダークオレンジなど、渋めの暖色を中心に、細かく色を変えながら積んでいる。

〈写真@〉
ワット・ソラサック8.jpg

〈「目で見て盗め」というのは指導が下手なことの言い訳。〉
などと声高に言う人間がいる。
これについては、半分は正しいが半分は間違っていると考える。
確かに、その場で俄に言葉で説明出来ないことでも少し調べたら上手く説明できるにもかかわらず、そういうことが面倒だからと端折り、「目で見て盗め」とお茶を濁す無精な輩のいることは事実である。しかし、他方、物事を突き詰め続けると、どうしても言葉で説明出来ない感覚的な技というべきものにぶつかるのも事実であり、これについては「目で見て盗め」としか言いようがない。所謂、〈センス〉の類いはそれである。

この作品については、ほぼ〈センス〉によるものだ。故に、ある部分では、
「上手くなりたければ目で観て感じろ。そして盗め」
としか私には言えない。

     ★ ★ ★ ★ ★

まずは、土台部分。

〈画像A〉
201312161618e Sukothai, Wat Sorasan
(画像引用元=Wikimedia commonsより"Wat Sorasan")

実物の土台は、およそ正四角錐台状に煉瓦で組まれている。
この作品も同様に、ジャンパープレートの積分で出来ているが、ただ積んだだけではない。
部分的に出っ張った部分を造り、風化して欠けた雰囲気を創り出している。

〈写真A〉
ワット・ソラサック7.jpg

おそらく、このはみ出し量がランダムな出っ張りの部分に使われているのは、1x2タイルプレートだろう。

このブログの熱心な読者に初心者はいないのではないかと思われる。おそらく、上の一文で作者が何をどうしたかも粗方察しが付いただろう。だが、念のため解説しておくことにする。

1x2タイルには、他のパーツにはない特性がある。
それは裏面に、パーツを固定するピンが入っていないことだ。
同じ1x2サイズのプレートパーツを並べてみた(写真B参照)。左から順に、1x2プレート、ジャンパープレート(旧タイプ)、ジャンパープレート(新タイプ)、タイルプレートで並んでいる。並び順は、その下の写真(C参照)も同じである。

〈写真B〉
パーツ・サンプル1.jpg

プレート、ジャンパープレート(旧タイプ)には真ん中にピンが付いている。ジャンパープレート(新タイプ)の場合は、長辺の両側に3つずつ爪が付いており、通常のブロックやプレートの固定が、パーツの両端の他、センターでの固定も可能なようになっている(旧タイプの場合、ポッチに穴のある物、例えば1x1ラウンドブロックなど、しか留められなかった)。その点、タイルにはこのピンや爪がついていない。これがのパーツ最大の特性である(補足:ちなみに、タイルプレートでも他の長さのもの(1x3や1x4など)にはピンがある。全くないのは、この1x2だけである)。

〈写真C〉
パーツ・サンプル2.jpg

それ故に、こんなことが出来る。

〈動画〉


上の動画でも判るように、パーツを1x2の範囲内なら好きなところで固定できるのだ。
故に、こんなことも出来る。下から順番に、少しずつ固定位置を変えながら8枚のタイルを並べてみた。裏返したものを見ると、パーツが少しずつ階段状にズレて留まっていることが判るだろう。

〈写真D〉
パーツ・サンプル5.jpg

この特性を応用して、風化した土台部分の細かな凹凸を再現している。

〈写真E〉
ワット・ソラサック6.jpg

     ★ ★ ★ ★ ★

次に装飾部分。
まずは、実物から。
リアルな象の彫刻が、レンガの壁を突き破るようにして半身で並ぶ。
鼻の下がり具合などをみると全部同じように見えるが、耳の形など少しずつ違うようだ。
滑らかながら硬さある象の皮膚の感触も見た目から伝わってくる。建立当時は、その丁寧な仕事がもっと際立っていたのだろうと思われる。
ところどころ象の牙が欠けているが、これは風化が原因だろう。

〈画像B〉
201312161614b Sukothai, Wat Sorasan
(画像引用元=Wikimedia commonsより"Wat Sorasan")

作品の方は、実物に比べると、象の体色が新灰で生々しい。
本来ならタン系統の色でまとめるべきところだろうが、しかし、パーツの構成を考えると十分に揃わなかった可能性が高い。タンは割と色々なパーツがリリースされているが、ダークタンのヴァリエーションは少ない。鼻の付け根のコネクト類について言えば、新灰しかない状態だ。この点について責めることは酷だろう。

〈写真F〉
ワット・ソラサック1.jpg

煉瓦が風化し、苔むし、荒れた装飾部分の天面をよく再現している。
この辺りのウェザリングの技術は、〈センス〉である。
ここから先は小手先の技術がどうのこうのではない。〈センス〉の世界だ。
もう一度、上から目線承知で言う。
「目で観て感じろ。そして盗め」

〈写真G〉
ワット・ソラサック2.jpg

釣鐘型の塔の部分を見る。
1x2x1 レンガ目地付ブロックや各種スロープなど、部分的に大きめのパーツを使っているが、大半はプレートの積分である。細かい凹凸、色調の変化などを細かく調子を変えながら積分している。単純に見えるが、とても〈センス〉の問われる部分である。想像するに気の遠くなる作業だ。しかし、こうしたウェザリングの感覚は身につくと強い。こうした遺跡や古典建築の再現は勿論、自然の崖や岩場の再現にも応用できる。

〈写真H〉
ワット・ソラサック9.jpg

〈写真I〉
ワット・ソラサック3.jpg

〈写真J〉
ワット・ソラサック4.jpg

〈写真K〉
ワット・ソラサック5.jpg

最後に塔の先端部分。
プレートの積分で円弧の長さを調整して作った高さ4ポッチの円筒を6段積んでいる。
最下段の一面の弦の長さは6ポッチ。それぞれ、5、4、3… と弦を1ポッチずつ短くすることで直径を小さくし、細長い円錐形を作り出している。

〈写真L〉
ワット・ソラサック10.jpg

     ★ ★ ★ ★ ★

最後に改めて、
このブログの開設の趣旨は、「どうすれば上手く作れるようになりますか?」という問いかけに、私なりに答えるべく始めたものである。
とはいえ、「『目で盗め』と言われても困ります」という人もいるだろうし、実際、そのつもりで写真を見てもピンと来ない人もいるだろう。ただ、判らないで諦めてはいけない。センスの類いは、一時で身につくものではない。見つつ作りつしているうちに、何が肝か追々明晰判明になってくるものだ。それが明日か十年後かは定かでないが、ともかく、こういう感覚的なものはそういうものである。辛抱強く頑張りましょう、上手くなりたければ!

註※
写真@〜L及び動画は筆者による。
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2018年11月16日

レゴ世界遺産展探訪15−1

★ アジア編6−1 ★

21.
『古代都市スコタイと周辺の古代都市群』
より
ワット・ソラサック
作:Xylvie Wong

〈画像〉
201312161616a Sukothai, Wat Sorasan
(画像引用元=Wikimedia commonsより"Wat Sorasan")
※ 画像クリックで引用元に遷移。

その王国の名であるスコタイは、スカ・ウダヤ(”sukha udaya”)というサンスクリット語がタイ語に転訛したものである。意味は、「幸福の夜明け」。
スコタイ王国は、13世紀、現在のタイ王国北部スコータイ県辺りに誕生した小タイ族の国である。
小タイ族とは、メコン川からチャオプラヤ川にかけての中央平原部に暮らしていた民族で、狭義では所謂シャム人を指す。タイの主要民族の一つだ。

スコタイ以前、小タイ族は、インドシナ半島を広く納めていたアンコール王朝(クメール人の国)の支配下にあったが、ジャヤーヴァルマン7世の崩御に伴い国が弱体化したのを機に蜂起。クメール人を追い出し、建国に至った。

国の統治は独特である。
〈ポークン〉という理想的君主像に基づく父権主義統治である。
即ち、王は家族を守る良き父親のように振る舞い統治する、というのがこの国の統治スタイルだった。このことは、第3代国王ラームカムヘーンの遺した『ラームカムヘーン大王碑文』に詳しい。
ほぼ全ての業務を王一人が担っていたという。
王が公明正大な法廷を開き、住民の悩みを訊き、大岡裁きを行っていた。配下の臣民とは個人的につながることで連帯を保ち、周辺国との外交、商取引も個人的な情によるつながりによるものだった、などなど。領域内には、複数のムアンと呼ばれる都市があったが、いずれもこうした方法による統治が行われていたという。このような緩い統治が可能だったのは、それぞれ住民の少ない都市だったからだと言われている。もっともこうした平和的、牧歌的な支配体制は、王の崩御と共に急激に弱体化する原因ともなった。多くのことが個人的な繋がりで成り立っていた以上、その個人が亡くなれば周囲との関係が全て解消されるのも当然である。

スコタイで仏教が広まったきっかけは、一つにラームカムヘーンがセイロン(現、スリランカ)の上座部仏教に感化され信仰を始めたこともあるが、第6代リタイ王が国の弱体化に歯止めをかけるべくそうした仏法を導入したこともまた大きい。彼は、一人の求道者として出家もしたことから仏法王とも呼ばれている。こうした環境の中で、スコタイ様式という独特の仏教美術や建築の文化が花開いた。今回の作品であるワット・ソラサックもその一つである。

     ★ ★ ★ ★ ★

ということでようやく本題。

〈写真@〉
ワット・ソラサック8.jpg

…と行きたいところだが、今回はここまで。

東南アジア史は、少数民族の離合集散による国家の乱立衰退が激しいうえ、文化的にも判りづらいところだから説明だけで大変…。

註※
写真@は筆者が撮影した。
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2018年11月14日

レゴ世界遺産展探訪14−2

★ アジア編5−2 ★

前回の続き。

まずは全体から。
非常によくできている。

合掌する手のように、滑らかに反り上がる多層屋根には金色の鴟尾に似た装飾が輝く。
白壁には金のレリーフがあちらこちらにあしらわれ、目映いばかりだ。
二層の土台の白さが清々しく眩しい。
ルアン・パバーン様式と呼ばれる伝統的なスタイルを取り入れた建築らしい。
国宝を祀るに相応しい豪壮華麗な建物である。
その特徴をよく捉え、再現していると思う。

〈写真@〉
ルアン・パバーン3.jpg

側面の窓の装飾も細かい。

〈写真A〉
ルアン・パバーン2.jpg

作品の展示位置の関係で裏側をしっかり見ることは難しかったが、手抜きはない。

〈写真B〉
ルアン・パバーン18.jpg

庇を幾層にも重ねたような独特の形式の屋根である。
実際には、表面を板で葺いているようだ。
ここは単純な積分で作っている。スタッドを残しているのは、その質感を出すために敢えて残しているのだろう。

鴟尾のようなものは、おそらくチョーファーだろう。
チョーファーとは、特にタイ式仏教建築に見られる独特の装飾である。
一般には、ガルーダ(迦楼羅天/かるらてん)の羽を象ったものと言われている。
ガルーダは、インド・ヒンドゥー教神話に登場する鳥頭人身有翼の神であるが、しばしば、鷲のような大型の猛禽類に似た姿でも描かれる。主食は、蛇(ナーガ)である。
仏教において、〈毒蛇〉は煩悩や嵐のメタファーであることから、これを食らうガルーダは、煩悩を滅し風雨を退ける守護神と理解されている。また毒蛇そのものの被害から人々を守る蛇除けの神としても崇められている。
その羽が、屋根の棟の上やそれぞれの四隅に配置されている。
これを金の爪で再現している。

屋根の端の白く盛ってある部分は、バイラカーと呼ばれるもので、これもタイ式仏教建築の特徴である。
ガルーダの翼とナーガの鱗を表しているらしい。
ガルーダは、しばしば、ナーガを踏みつけにしている姿でも描かれるので、これも魔除けの意味があるのだろう。
ラオスとタイは、古くから関係が深いので、こうした特徴が受け継がれているものと考えられる。

〈写真C〉
ルアン・パバーン4.jpg

棟の真ん中には、金の装飾が施してある。まるで王冠のようだ。

〈写真D〉
ルアン・パバーン5.jpg

     ★ ★ ★ ★ ★

続いて、土台側面。
装飾がシンプルながら美しい。
1x2三本爪付プレートを並べて装飾しているが、いかにも東南アジアという感じが滲み出ている。

〈写真E〉
ルアン・パバーン6.jpg

中央に切られた出入り口の軒庇の造りが面白い。
金色のバールを組み合わせて、屋根に見立てている。

〈写真F〉
ルアン・パバーン8.jpg

それにしても、この部分、どうやって作ったのだろう?(写真G、青丸内参照)。
これを書くに辺り、写真を拡大してみてようやく気づいた細かい細工である。
最下層の土台部分は、どの面も全体的に半ポッチ分はみ出すように作られている。
この出入り口部分だけ、1x2レール付プレートで面が揃うように調整が施されているが、問題はその上の部分。
丸棒を噛ましてあるのが判る。これは、レール付プレートに2x2ジャンパープレートを重ねることで出来る1プレート分の隙間を埋めるための措置だとまでは判るのだが、どうやって取り付けたのか全く判らない。

〈写真G〉
ルアン・パバーン7.jpg

     ★ ★ ★ ★ ★

続いて、建物正面。

作者曰く、バリエーションの少ないパール・ゴールドのパーツを駆使し自分の限界に挑戦したという。
コメントのとおり力作だ。
実際の画像と比べてみると、完全再現とまでは行かないまでもよくここまで実物に寄せたなと思う。

この正面妻壁の装飾は、
実物では大きく4つのレリーフから成る。
細かくて見にくいのだが、左から釈迦出奔図(おそらく旅立ちのシーンと思われる)、中央下部に釈迦説法図、右に釈迦涅槃図。そして中央上部に、おそらく天上の釈尊を描いたと思われる図が彫刻されている。

〈写真H〉
ルアン・パバーン13.jpg

〈画像〉
Luang Prabang-Wat Ho Pha Bang-04-gje
(画像引用元=Wikimedia commnsより、"Luang Prabang-Wat Ho Pha Bang")
※ 画像クリックで引用元に遷移。

〈写真I〉
ルアン・パバーン11.jpg

この部分をどう見るだろうか(写真J、K青丸部分)?
中央下部の装飾である。
先に書いたとおり、実際の建物では、この部分に釈迦説法図のレリーフが施されている。
蓮の台(うてな)に、光輪を背負ったクメール風の釈尊が半跏趺坐(はんかふざ)の姿勢で坐している。
左に三人、右に二人。細かく見ると、二頭の鹿も見える。

〈写真J〉
ルアン・パバーン14.jpg

はじめ、金の1x1ラウンドタイルが頭、逆さに取り付けた斧の頭が上半身で、その真ん中の膨らみが手、金の爪が半跏趺坐の足に見えた。
実際の釈尊よりかなり大きいが単に強調しただけかもしれない。
しかし、足と見立てた部分は、もしかすると、左右の弟子達の姿とも見える。
いや、そもそも頭は他のパーツと同じ平面に並んでいて浮き出ていない。金の爪もアーチの再現かとも思い直すと、単に、説法図の部分のごちゃごちゃとした感じを斧の頭にまとめただけかもしれない。
どう見るかでいろいろ見え方の変わる不思議な見立てである。
読者諸氏は、これをどう見るだろうか?

〈写真K〉
ルアン・パバーン12.jpg

見えにくい内部もとても凝っている。

〈写真L〉
ルアン・パバーン16.jpg

〈写真M〉
ルアン・パバーン19.jpg

正面両脇の扉の装飾も細かい。

〈写真N〉
ルアン・パバーン17.jpg

軒下の柵の作り方が面白い。
クロムゴールドのスキーのストックは、確かCREATORシリーズの大箱『ビックベン』に大量に入っていた筈。

〈写真O〉
ルアン・パバーン10.jpg

その柵をLDDで作図したものが、図@。
それを展開したものが、その下の図Aである。
これはいろいろ使えそうな技である。

〈図@〉
パバーン柵1.jpg

〈図A〉
パバーン柵2.jpg


階段の装飾が美しい。

〈写真P〉
ルアン・パバーン9.jpg

     ★ ★ ★ ★ ★

最後に、少しだけ毒を。
非常によくできている。
しかし、それだけに建物下のこの変な隙間が非常に気になる。
本当にこんな隙間があるのだろうか?

ルアン・パバーン20.jpg

調べてみると、案の定、そんな隙間はなかった。
どうにかならなかったのか? いやその腕があるなら何とかなっただろう。
そこが実に惜しい。
私なら、こんな隙間は絶対に作らない。
そこがちょっと残念ではあるが、しかし眼福には違いない。


註※
写真@〜Pは筆者が撮影した。
図@Aは、LDDを用い筆者が作図した。
posted by KM at 08:00| Comment(0) | 作例研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする